狂った一頁

僕達を縛り付けて独りぼっちにさせようとした全ての大人に感謝します。

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久しぶり

そう言えば、数年前にこんなことがあった。


私は四方を壁とカーテンで囲われた接骨院の治療台に俯せに寝かされ、腰に電気を流されていた。以下は、カーテン越しに聞こえて来た患者さん達の会話である。


先生「はい、スズキさんお疲れ様でした~」

スズキさん「ありがとうございましたぁ」


一人の老齢の女性が治療を終え診察室を出て、待合室の長椅子へと戻って行ったようだった。足を引きずった様なスリッパの音が聞こえた。
スズキさんは、順番を待つ同じく老齢の女性に大きな声で話しかけた。


スズキさん「あの…、もしかしてキムラクミちゃんじゃない?」

老齢の女性「え?」

スズキさん「私、○○町のスズキヨシです。クミちゃん…でしょ?」

老齢の女性「えっ、ヨッちゃん?」

スズキさん「やっぱり、キムラクミちゃん!いやぁー、久しぶりねぇ~」

キムラさん「ホントねぇ、驚いたわねぇ」


スズキさんに比べ、キムラさんの声は小さく擦れ、聞こえずらかったが2人は偶然の再会に驚き、喜んでいる様子だった。


先生「へぇ、スズキさんとキムラさんはお知り合いだったんですかぁ」

スズキさん「そうなんですよ、でもびっくりね、こんな所で久しぶりに会うなんて」

先生「そうですか、お二人はどれくらい会ってなかったんですか?」

キムラさん「(相変わらず小さな声で)どれくらいかしらぁ…」

スズキさん「何年振りかしらぁ…70年振り位?…そうね、その位になるわねぇ」


70年振り…スズキさんは、以外とアッサリとした口調でそう言いました。
「ナ・ナ・ジュ・ウ・ネ・ン……」私はカーテンに囲まれた狭い治療台の上で、脳内に残る老齢女性の声の残響を確認していた。
ナ・ナ・ジュ・ウ・ネ・ン、ナナジュウネン、ななじゅうねん、七十年、70年…。
70年前……戦前です。大東亜戦争勃発前です。


先生「へぇ~、それは凄いですねぇ。スズキさん、580円です。はい湿布です。貼り方説明しましたっけ?大丈夫ですか?あ、は~い。加藤さんお待たせしました。中へどうぞ」


順番を待っていたもう一人の中年男性が診察室に入って来る。


先生「加藤さんも久し振りですね、どうされました?……そうですか、わかりました。じゃぁこちらに横になって下さい……」


ちょっと、ちょっと、先生、70年振りですよ。僕らの生まれる遥か前ですよ。満州国がどうのこうの言ってた時代に生き別れたお二人が、今まさにこの場所で再会なされたのですよ。これは奇跡とかそう云うレベルの出来事ではないですか。加藤さんが来たのは半年振りでしょうが。


どうやらスズキさんは、キムラさんの治療が終るまで待つことにしたようだ。


スズキさん「今は何処に住んでらっしゃるの?あの、昔のまま?」

キムラさん「いやいや、今はねぇ、××町の方にねぇ…」

スズキさん「あそうなの、私もね……」


70年間の空白を埋めるには、一体どれだけ話せば足りるのだろう。
キムラさんの声は相変わらず小さく、途切れ途切れではあったが大体次のようなことが分かった。


・当時二人が住んでいた辺りは、区画整理され、現在は大きな道路になっていること。
・キムラさんの関西への引っ越しが二人を別れ別れにしてしまったこと。
・戦後、キムラさんは関西で結婚し、ご主人の転勤で偶然にもまたこちらに戻って来て、今の家を買ったこと。
・だから実は二人とも結構近くに住んでいたこと。
・スズキさんは御主人を27年前に亡していて、キムラさんの御主人も10年前に亡くなっていること。


ここでキムラさんの順番が来て、続きはこの後お茶でも飲みに行きましょう、ということになり院内は急に静かになった。


程なくして、私の治療も終った。
スズキさんとキムラさんに会える。70年振りの友人の顔を今になっても判別出来るくらいなのだから、よっぽどの関係だろうし、付き合いも長かったはず。そう考えると二人とも80歳は超えていてもおかしくない。実際にはどんなお顔をされているのだろうか…。


はやる気持ちを抑えて私はカーテンを開けた。
残念ながらキムラさんはカーテンの向こう側に居られ、お顔を拝見することは出来なかった。
そして、診察室を出ると、待合いの長椅子には一人の老齢の女性が座って居られた。
この人がスズキさん……思いの他若々しく見えるスズキさんの姿に私は少々驚いた。
70年前のスズキさんを想像してみた。しかし待合室のスズキさんの姿から、少女時代のヨシちゃんの姿を思い浮かべることは、私には出来なかった。
スズキさんもキムラさんも、お互いによく気付いたものだと、改めて二人の友情に感動し、胸が熱くなった。


人に歴史あり。ああ、出来ることなら、私もお二人と一緒にお茶したい。そんな後ろ髪を引かれる思いで治療代を払い、接骨院を後にしたのだった。


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テーマ : 日々のつれづれ    ジャンル : 日記

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